価格決定と行動経済学

価格決定と行動経済学

価格決定とネーミングはもっとも効果的なマーケティング施策である、と日頃から言っていますから、本記事では価格決定の一端について書いてみたいと思います。


 

プロスペクト理論とは

一端として、プロスペクト理論について書きます。

もともと「プロスペクト」とは「見通し」や「展望」という意味です。

MLBでprospectといえば、「有望な若手選手」という意味。
ドラフト3巡目以内で指名され、3年目あたりにメジャー昇格したような選手でしょうか。

行動経済学でのプロスペクト理論は、「人は損失を回避する傾向があり、状況によってその判断が変わる」という意思決定に関する理論です。
提唱したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーは2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。

 

典型的な質問例を掲載します。考えてみてください。

●質問 1 : あなたには二つの選択肢が提示されています。
選択肢 A : 100万円が無条件で手に入る。
選択肢 B :コインを投げてオモテが出たら200万円が手に入るが、ウラが出たらゼロ円。

●質問 2 : 200万円の借金を抱えているあなたに二つの選択肢が提示されている。
選択肢 A : 無条件で負債が100万円減額される(負債は100万円残る)。
選択肢 B : コインを投げてオモテが出たら借金は棒引きになるが、ウラが出たら借金はそのまま。

すべての選択肢における期待値は100万円と、同じです。
けれども多くの人は、質問 1では手堅くAを選び、質問 2 ではBというギャンブルを選ぶ。実験結果で実証されている事実です。
これは、プラスとなる利益を逃すリスクは回避したい、さらに抱えている損失は解消したいという傾向(損失回避性)があるということなのです。

つまり、意思決定と金額の多寡は釣り合わないね、という心理なのです。
もう少しわかりやすい例を挙げてみます。

 

あなたは勤め先のビンゴ大会で4等が当たり、現金1,000円をもらって喜んだ。
それを忘れた頃、今度はポケットに入れておいた1,000円札をどこかで紛失してしまった。

いかがでしょうか。1,000円をもらったのはうれしいが、自分の1,000円を失ったときのショックのほうが大きい! と感じるのではないでしょうか。

 

参照点を活用して価格を決定する

上のグラフでは、実際の金額(ヨコ軸)に対して、心理的な喜び(タテ軸)は一定ではないということ(点線のハコが正方形と長方形で異なる)が表現されています。

1 参照点を把握する

そして、中央の基準ポイントが参照点と呼ばれ、価格における相場となります。ここを把握していれば、適切な価格設定もできるというわけです。

2 参照点をズラす

さらに、 参照点をズラすことができれば割安と思われ、購入意欲を刺激することができます。

例えば、深夜のテレビ通販番組。
MCが新型掃除機をプレゼンし、吸引力の強さやゴミ捨ての容易さ、斬新なデザインをアピールします。
すると、ゲストのタレントが「私は旧型を5万円で買ったんですよ」と言い、別のタレントが「新型だから6万円はしますよね?」と質問する。

それに対してMCは「いいえ! 今回、がんばりました。なんと税込み3万9800円でのご案内です!」と言うのです。とうぜん、ゲストたちは「安〜い」と声をそろえます。

さらにMCは「下取りの掃除機があれば、壊れていても1万円でお引き取りします」と宣言するのを受けて、ゲストは「じゃ2万9800円! 3万円を切るんですね!」と驚きます。

たたみかけるようにMCは「いまなら、こちらの充電代もおつけして、お値段変わらず」。続けて「00時間以内にお電話をいただければ送料無料でお届けします!」とまで言われると、視聴者はどんどん安くなると感じて思わず電話を手元に引き寄せてしまうのです。

参照点(当初の相場価格)が提示されたことによるフレーミング効果が発生したといえるでしょう。

3 損失回避性を意識する

また、「00時間以内なら」で購買意欲を刺激しようとするのは損失回避性を利用しています。

4 参照点をつくる

まったくの新規商品である場合、見込み客は参照点、つまり相場観を持っていません。そうなると、参照点をつくったもの勝ち、ということにもなります。

例えばエナジードリンクが市場に登場した際は、それまでにはなかった商品カテゴリーであったため、当初は260円などの価格で販売されていました。一般の120円ていどの缶ドリンクと比べ、特段の内容成分が含まれているわけではないと言われながらも、一時は人気商品となっていました。

 

以上、行動経済学を活用した価格設定法の一端を解説してみました。
また、価格設定の方法や行動経済学をマーケティングに活用するやり方などを伝えていきたいと思います。

 

 

 

製造業マーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。

本コラムは、ものづくりの現場での気づきや日々の雑感、製造業のマーケティングや販路開拓に関するノウハウなどをお伝えするものです。 お気づきのことやご質問、ご要望などがありましたら、お気軽にメッセージをお寄せください。

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