企業スローガンを活用する方法
言葉は生きている……。
同じく、企業スローガンも生きています。
今回は、企業スローガンを活用する方法、進化させていく方法について書いています。
10●企業スローガンはどのように活用するのか
弓削は、支援先企業の新規事業を検討する際、企業スローガンとの整合性をチェックします。
どの企業も、企業スローガンを策定するときには「ウチはなんの会社か」「ウチの価値はどこにあるのか」ということを、時間をかけて考えています。
5年後、10年後、ウチはどうなっていればよいのか──。
そのように考えた末の1行ですから、やるべきこと、やるべきではないことのフィルターになっていると言っていいのです。
新規事業だけでなく、新商品アイデアを出していくときも、「この事業(新商品)は、ウチの企業スローガンと整合性があるか」ということを検討します。
また、一つひとつの経営判断や、ボトムアップのアイデアも同様です。
会議の終盤、出そうとしている結論の方向性が全社的に適合しているかどうかを確認している会社もあります。
ヘンな事例ですが、ユニクロ、GUなどを展開するファーストリテイリングが野菜を販売するビジネスをはじめると宣言したことがありました。
発表の中身を知らされるまでは株価は上昇しましたが、発表後は急落しました。
投資家は正直です。「なぜ、ユニクロが野菜を扱うのか、そこにシナジーは生まれるのか」と疑問符がついたわけです。
そして、当然というべきか、同社は早々に撤退を発表することになります。
ファーストリテイリングには定番となる企業スローガンはないようで、ウェブサイトに掲げられている1行は次のようなモノです。
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」
野菜をどうこう考えるときに、このメッセージが座右にあれば、おかしな決定をせずにすんだのではないでしょうか。
その他の活用法(販路開拓、人材採用)では、次項と重なりますので譲ります。
11●企業スローガンは進展・変化する
企業スローガンは、それぞれの企業の立ち位置や成長段階によって変化していくものでもあります。
近年、パナソニックも「ideas for life」という企業スローガンを廃し、新たに「A Better Life, A Better World」という新しい企業スローガンを制定していましたね。
「企業スローガンはコロコロ変えるものではない」ことは事実ですが、「成長ステージに合わせて変化していくものである」ことも真理です。
安定期、成熟期にある大企業ですら、方針の転換とそれにともなう企業スローガンの変更がある。
いわんや中小企業であれば、発展段階をふまえた“企業スローガンの進化”があっていいわけです。
では、それぞれの段階の企業スローガンの作成法はどのように考えたらよいのでしょうか。
(1) まず、最初は販売促進のキャッチコピーです。
「ウチの会社に発注してください、ウチはこういう製品をつくっていて、こんな価値を提供できますから」
他社にはない差別化のポイントはこれです、選んでください、と語っていくのが最初です。
(2) 次は、会社の事業が多角化したり、単品の製品機能を伝えるひとことでは済まなくなってきた段階の企業スローガン。
およそ企業体は、変化してこそ永続性を獲得することができます。
“老舗”とは、革新を続けてきた企業にこそ冠せられる称号です。
多角化の中で求められるのは、進出した異分野や複数の技術に共通する効果・価値を、わかりやすく言いあらわす言葉を発掘すること。
たとえば、私の支援先企業であるベルトコンベアメーカーが、ロボット事業に進出しました。
一見、異業種への進出と見られますが、そうでもありません。
ベルトコンベアは、事業領域としては「マテハン」と呼ばれます。
マテハンとは、マテリアル・ハンドリング。
つまり、生産や物流分野で原材料や部品、完成品を移動させる機器のことです。
ベルトコンベアで、宅配荷物や鉄鉱石、梅干しを移動させるのはマテハン。
同様に、ロボットアームを使って薬液などを移動させるのも、広い意味ではマテハンなのです。
そのため、この段階の企業スローガンで社業を訴求するなら、マテハンの専門企業としての独自バリューを統合的に訴求すればいい、ということになるのです。
(3) そして、さらに会社が成長していくなかで、上場も見据えた中堅企業となってきた段階の企業スローガンはどうなるのか。
その製品ブランドや技術が業界に広く知られ、メディアでも頻繁に取りあげられるほどになれば、もう自己紹介や売り込みの言葉は不要かもしれません。
そこまで来たら次は、まだ現在は達成できていない目標をビジョンとして示し、社内外へ決意表明するキーワードを採択してもいいでしょう。
(4) その先は、大企業並みのイメージ的な企業スローガンになっていくのかもしれません。
(4)’ また、人材採用にテコ入れをする必要が生じれば、企業スローガンのつくり方でお伝えしたように、旗印となる企業スローガンを別途、作成することもありますね。
求人サービスのウォンテッドリーでは、企業の熱い想いが伝われば、有名メーカーや高給の仕事を蹴ってでも就職を決めてくれる、と訴求しています。
その想いを、伝えるのは言葉。すなわち、企業スローガンというわけです。
販路開拓やモノが売れることも大きな効果ですが、有意な人材と出会えるというのは替えがたいメリットと言えますね。
コピーライター、製造業のマーケティングコンサルタント、弓削徹でした。
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