マーケティング調査はするな
企業のサイズが中堅企業をうかがうほどに大きくなってくると、必ず出てくる意見が「マーケティング調査をして決定しましょう」です。
実際に大手企業や外資系企業にはマーケティング調査に相当なコストをかけている会社もあります。
では、われわれ中小製造業もマーケティング調査をするべきなのでしょうか。
トム・ハンクス主演の米映画、「BIG」をご覧になったことはあるでしょうか。
この映画の中で、何も知らずに玩具メーカーの社員になってしまったトム・ハンクス(実はまだ子供)が、社内で出くわした社長の愚痴を聞き、何気なく質問します。
「マーケティング・リサーチって、何です?」
リサーチの結果に納得がいかない社長は皮肉と受け取り、「私も教えて欲しいよ」 と嘆くというシーン。
私も大手企業のマーケティングを請け負っていた頃は、よくマーケティング調査に関わったものです。
例えば、“グルイン”。
ターゲット層のモニター被験者を数人呼び、グループ・インタビューをおこないます。
その様子を、企業の担当者と一緒にマジックミラー越しにじいっと観察するのです。
しかし現場は、主婦やOLなど女性同士の場合、お互いが妙に牽制し合い、見栄やウソを含んだ発言が支配的になったりします。
「この商品が10,000円だったら買いますか?」との質問に「ええ、これだけ便利ならぜひ買いたいわ」と答えるけれど、実際は買いやしないのです。
(ウチは家計に余裕があるのよ)というマウンティングだったりするのですね。
あるいはインタビュアーの性別や年齢によっても結果は違ってきます。もしもインタビュアーがイケメンなら主婦も財布を開くふりをするのです。
「多少、高くてもリサイクル素材の商品を買いたい」と70%が答え、「リサイクル素材ではなく安価な商品を買いたい」と30%の人が答えたとします。
しかし、実際に割高な商品を買う人は70%もいるでしょうか。
弓削は以前、スターバックスの店員さんから簡単なアンケート調査を受けました。
しかし、質問者はたったいまスターバックス・ラテを淹れてくれた人です。
お客さんは「待ち時間が長い」とか、「いつも席が空いていない」だとか、「床にゴミが落ちている」などと言えるでしょうか。私は、言えません。
そもそも、調査に回答する消費者が、自分の欲しいものをきちんと思い描いて日々を暮らしているわけではありません。
ソニー創業者の盛田昭夫氏は「マーケットの調査は必要なかった。大衆は何が可能なのかを知らない。それを知っているのはわれわれのほうだ」と語っています。
出版業界では、「読者の声を採り入れはじめた雑誌は早晩、休刊になる」という言い伝え(?)があります。(「休刊」とは業界用語で実質的な廃刊のこと)
「消費者に意見を聞くなど、バックミラーを見ながらクルマを走らせるようなものだ」とは、ロバート・ラッツというマーケッタの言葉。
スティーブ・ジョブズのキライなもののひとつがマーケティング調査でした。
また、ダイソン創業者のジェームズ・ダイソンも、マーケティング調査は意味がないと発言。
あのZARAも、商品開発に際してはマーケティング調査は一切していません。
次は、米ゼロックス社の事例。
まだ湿式コピー機しかなかった時代、現在では当たり前の、しかしコストの高かった乾式コピーが受け入れられるかをゼロックス社はマーケティング調査しました。
その結果は圧倒的に「安価な湿式コピーをやめてまで買いたくはない」という反応でした。
しかし、ゼロックス社はあえてこの調査結果を無視し、乾式コピー機を発売しました。その判断が正しかったかどうかは、いまや問題にもなりません。
もうひとつは国内の事例です。
花王が「健康エコナクッキングオイル」の発売前に実施したマーケティング調査で、買いたいと答えた人は10%にも達しませんでした。
しかし、花王はこの結果とは関係なく発売し、商品は大ヒットしました。
被験者は、新しい商品をうまく理解できなかったわけですが、マーケティング調査に不慣れな企業であれば発売を断念していたかもしれません。
私は、セミナーや講座で「マーケティング調査で得られるのは3つの石だ」とお話ししています。
「石」とはなんのことでしょうか。
まず、ひとつ目は路傍の石です。
「価格は?」→「安い方がいいですね」
「サイズは?」→「コンパクトだといいと思います」
「カラーバリエーションは?」→「多いほうがいいでしょう」
って、そんなこと訊かなくてもわかっていますから! というような問答ですね。
あるいは、「A案……44%、B案……42%、その他……14%、でした」のような選択の役に立たない結果。
まさに道に転がっている無価値な石です。
もうひとつの石は、原石です。
マーケティング調査をしたら、いろいろ意見を得られたのだけれど、どう分析したらよいかわからない。
あるいは調査会社がテキトーに分析して、間違った方針を伝えてくる。
専業の調査会社の人と仕事をするなかで、優秀なインタビュアーに会ったことはありますが、優秀な分析官には会ったことがありません。
でも、請求金額だけはどこも一流です。専門家だからと信頼しているとひどい目にあいます。
つまりこれは、磨けば(分析すれば)光るのかもしれないけれど、磨くことができない宝石の原石ともいうべき調査データです。
そして最後は、胆石(体内の結石)です。
例えば、マーケティング調査好きのマクドナルドが「欲しいメニューは何?」とアンケート調査をすると、毎回「野菜を使ったヘルシーなメニュー」という希望が必ず出ます。
これを真に受けてサラダ系のメニューをつくると、話題にはなるもののさっぱり売れないのです。
結局、売れるのはがっつり系のヘヴィなバーガーばかり。
お客様は、マクドナルドへ来店する段階で、「今日は不健康でいいや!」と割り切っているというわけです。
というわけで3つ目は、採り入れると痛いことになる、困った意見、調査結果。
いわば胆石のようなものです。
だいたいマクドナルドは、数億円をかけて開発した独自のマーケティング・マップを持っており、その地図上をクリックすれば、その場所に出店した際の来店者数、売上、利益額がパッと出るようになっています。
それが本当に有益なマップなら、一時期のように毎年、数百店の店舗閉鎖をする日なんてくるはずがなかったのです。
ということで、みなさんも、これら3つの石にはお気をつけください。
次回以降、なぜマーケティング調査がダメなのか、どんなマーケティング調査なら有効なのかについて書きますのでご期待ください。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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