ブースに実物を展示できない時はこうする
展示会ブースには商品・技術の実物、実機を展示するのが基本です。
それを通路に接して展示し、来場者が興味を持ったらすぐに触ってもらえるようにしておくことが必要です。
ところが、いろいろな理由で実物展示ができないことがあります。
たとえば、次のような場合です。
■実物展示ができないケース
(1)商品が未完成
製品開発が追いついていない場合です。出展時期をリリース後に合わせられればよいのですが、展示会の期日も1年に1度ですので、こういうことも起こりえます。
(2)大きすぎる
実物、実機がブース内に設置できないくらい大きい。
住宅やログハウスそのものや、大きめの機械設備、あるいは大規模なプラントなど。
加工見本の部材、建材が長すぎる、という場合もはみ出してしまうので展示が憚られます。
(3)カタチがない
ITシステムベンダーやサービス業、流通などです。
また、ものづくりが本業であっても、付帯的なサービスを提供する場合も増えてきていますので、目に見える展示がむずかしいケースがあります。
あるいは、製品本体はあるけれど、無骨な機械を見せても絵にならない、それによって得られる効果の循環こそを見せたい、という場合もここに入ります。
(4)製品がない
部品は出来上がるのでカタチはあるけれど、それがそのまま自社の製品とはいえない ──。
加工下請け工場の場合がこれにあたります。
これは、元請企業から「加工部品を展示してよい」という許可が出ればいいのですが、なかなか出ないわけです。
以上のように、さまざまな事情で実物・実機の展示ができないことがあります。
じつは展示会活用セミナーで、いちばん多い質問のひとつがこれなのです。
では、どのように対応したらよいのでしょうか。
■展示できないときはこうする
展示ブースに必要な「三種の神器」と弓削が申し上げているのが、
「実物製品」と「タペストリー」と「誘引の仕掛け」。
そのメインともいえる実物・実機を展示できないケース別に、対応策を書きます。
(1)商品が未完成
この場合は、試作、サンプル段階のもの、またはモックアップの模型などを展示します。
かつては、専門会社に模型を依頼すると高額になったものですが、いまは3Dプリンタもありますので、低コストで製作することも可能になりました。
また、完成品のCG画像やパース図を、大きめのスタンドパネルやタペストリーに描くのもいいでしょう。
CG動画を制作・映示できるなら、それもありです。
※ソーラーLED街路灯の10分の1モデル
(2)大きすぎる
これは(1)とも共通ですが、縮小模型の展示が基本です。
大きなものをミニチュアで製作すると、なぜかかわいらしくなるものです。
日本の縮み志向、箱庭文化にも通じるものでしょうか。
また、こちらも製品機械を撮影した動画をモニターに映し出し、繰り返し流す方法もあります。
さらに、最近は身近になってきたAR(Augmented Reality/拡張現実)技術を使うこともできます。
展示台上に「きっかけ」となるデザインマークを置いておき、アプリ搭載のタブレットをそこへ向けると、製品機械がバーンと現れるのです。
タブレットを手にした訪問者は、デザインマークの周囲を動くことで、稼働するマシンを四方八方から眺めて体感してもらうことができます。
※ログハウスをブース内ギリギリに展示
(3)カタチがない
リサイクルシステムやIT系サービスであれば、システム図やサービス概念図など半立体で製作するのがオススメです。
半立体というのは、やはり箱庭のようにして見せることです。
半立体でなくても、大きなタペストリーに図解を掲載することでもOKです。
システム図は、正確さよりもわかりやすさを優先し、一部を割愛するなどしてシンプルな図解を心がけてください。
実際の設計図や概念図を忠実に再現するよりも、マンガのように表現するほうが理解してもらいやすくなりますし、説明も容易になります。
※住宅の雨水融雪システムの説明タペストリー
(4)製品がない
部品を見せればわかってはもらえますが、本当に見せるべきは加工技術です。
そこで、自社のコアな加工技術が「ある・なし」を比較して見せることを考えてください。
「ウチのコア技術があるとこう仕上がるが、ないとこんなに残念です」
というビファ・アフター(ある・なし)の加工部品を並べて違いを見てもらうのです。
VA/VEのある・なしも、2つの部品を並べれば伝わりやすくなります。
ただし、ズバリの部品も発注元企業の許可がなければ展示できません。
そして、往々にして許可は出ません。
その場合は、部品の特徴がわからないように一部分をレーザーカットしてしまう方法があります。
コア技術の部分さえ残っていれば違いは伝わります。
そして、それもできない場合は、展示会の会期までの時間を使って、似ていて異なる架空の部品をつくるしかありません。
想定する業界、分野の人にアピールすることが目的ですので、あまり違和感のある形状(昆虫や花など)は避けたほうがよいでしょう。
よく、カブトムシにメッキをして「昆虫にもメッキできます!」と紹介するような見本展示を目にしますが、ややイメージ的になってしまいます。
■説明プレートを設置する
ビフォア・アフターの比較見本を見せて、触ってもらったりすれば伝わりやすくはなります。
とはいえ、発注者は必ずしもあなた会社の技術周辺を知り尽くしているわけではありません。
訪問者が説明を聞きたいと思っても、スタッフが別の接客、説明に追われていることもあるでしょう。
そんなとき、せっかく興味をもってくれた訪問客を帰してしまわないために、説明プレートを置いておくことが有効です。
これは、技術の紹介タイトルに、2行くらいの差別化ポイントの説明文をつけたもの。
一人歩きできる説明プレートがあることで、スタッフの手がふさがっているときも、本気の訪問者ほど読みながら待ってくれます。
そして、読んで理解したあとも立ち去らないのは、「これは話を聞いたほうがいい」と考える見込み客になってくれているのです。
「プレート」といっても、特別なツールを製作する必要はありません。
ワープロで打ち、プリントアウトした説明文を、100円ショップなどにある透明樹脂のスタンドに挟むだけでいいのです。(会議のときの名札表示のようなものです)
●具体的な事例を紹介します。
ある支援先企業は高度な鋳造技術がウリでした。
ブースに展示するのは、とうぜん鋳造部品なのですが、説明がないと伝わらないものでした。
それまで(ビフォア)は、その部品は2つに分けて切削加工して、ビス留めでつくられていました。
マシニングセンターを使うので時間とコストがかかり、そのうえビス留め部分の強度も心配です。
それに対して、この会社は、複雑形状のこの部品を一発鋳造(ロストワックス)でつくってしまう(アフター)のです。
そうすると、時間もコストも削減でき、強度の心配もなくなる。
担当者さんの課題を解決する加工見本なのです。
でも、こうした背景は説明しないとわかってもらえません。
対応スタッフの手が足りないときのために、上記の説明を文章にして、プレートに掲げておくのです。
そうすれば、有望な見込み客に待ってもらう、引き止め効果が生まれるのです。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげとおる)でした。
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