ネーミングを変えたら売れた
本記事から、数回にわたってネーミングの大切さとノウハウについて書きます。
ぜひ、チェックしてみてください。
1■ネーミングが注目されています
NHKで放送中の「ネーミングバラエティー 日本人のおなまえっ!」が人気のようです。
「ネーミング」という言葉は業界用語のようなものですので、ゴールデンタイムの、しかも公共放送の番組タイトルにキーワードとして冠されるようになるとは意外でした。
ネーミングはコピーライターの仕事であることが多いのですが、社長のツルの一声で決まったという商品名のエピソードもよく聞きます。
いずれにしても、「ネーミングするのが仕事」という人は少ないはずで、一般的な話題ではありません。
とはいうものの、ものづくり企業であれば、ネーミングに悩む場面はけっこう日常です。
あるいは飲食店だったらどうでしょう。
印象に残る店名、料理名やセットメニュー名などは、ネーミングが重要です。
パン店の新商品や、接骨院の診療コース名、美容室なら店名やメニュー名のほかに店販品も名付けなければなりません。
起業家なら新社名や新サービス名、ネット通販ならサイトショップの名称など。
出版社の編集者さんたちが日々、直面しているのは書籍のタイトルを考えるという課題。
堅気の企業でも、企画書の表題やプロジェクト名、見積もりタイトルはもちろん、メールのタイトルなど、ネーミングっぽいスキルは実は必須です。
「毎日のように」必要ということはありませんが、ネーミングがビジネスの規模や方向性を決定づけてしまうことも事実。
たとえば、地方の商工会でセミナー時にご相談を受けることが多い、6次産業について。
「せっかくつくった自信の商品が売れていない」原因は、ネーミングとパッケージが9割です。
ネーミングというスキル。ビジネスをする人であれば、ぜひ考えていただきたいものなのです。
2■ネーミングのチカラで注目される、売れる
ユニークなネーミングとともに売れた商品は数多いのですが、これからご紹介するのは、最初は平凡なネーミングで発売されたものの売れず、ネーミングを変更したところ注目されてヒットした、という事例のみです。
●ネーミングを変えることで注目され、売れた商品
・まず、有名なところでは、このような例がありますね。
フレッシュライフ→通勤快足
山陽相互銀行→トマト銀行
缶入り煎茶→お~いお茶
・また、その他ではこんな事例も。
モイスチュア・ティッシュ→鼻セレブ
たためるジャケット→旅に便利なジャケット
ストリングチーズ→さけるチーズ
・変わったところでは、こんなケースもあります。
日和山遊園→城崎マリンワールド
みだくなす→ラ・フランス
きざみ海苔バサミ→秘密を守りきります
三陰交をあたためるソックス→まるでこたつソックス
ところで、[草刈機まさお]や[芝耕作]というネーミングをお聞きになったことはあるでしょうか。
これは、中小企業といっていい筑紫キャニコムという農機具メーカーが発売している商品名です。この会社の会長さんが、楽しみながら発案し、ネーミングしているのです。
拙著「キャッチコピーの極意」のあとがきにも書いたのですが、「草刈機まさお」の発売後、工具や農機具の業界大手、マキタが芝刈り機のCMキャラクターに本物の草刈正雄を起用しました。
ところが、ギョーカイの反応は「大手なのにマネをした」「後追いか」というものでした。
一方は会長が笑いながら考えたネーミングだけなのでコストはゼロ円。
片や、マキタはキャラクター契約とテレビCM放映料とで数億円をかけている。
それでいて、ホームセンターでは「あー、これこれ。テレビでやってた」なんて言いながら、おやじさんが筑水キャニコムの[草刈機まさお]を買って行ったりして……。
そんな想像をするとおかしくて仕方ありません。
社内で発案すれば、文字どおりゼロ円ですむネーミング。ぜひ、取り組んでいただきたいと思います。
3■ネーミングの知恵でゼロ円販促
もう1つ、ユニークな事例をご紹介します。
東京都・新橋にある和菓子店舗の新正堂は、大正時代の創業。
この老舗が、そうとう気合いの入ったネーミングでブレイクしました。
[切腹最中]
営業職の人が失敗をしでかし、得意先にお詫びにお伺いするときの手土産にぴったりなのが、こちら。
もともとは忠臣蔵に取材したネーミングのようです。以前には、役所広司、瑛太、海老蔵らが出演する切腹がテーマの映画「一命」とのコラボパッケージも話題です。
[景気上昇最中]
誰もが望む、景気の上昇。それをそのままネーミングにしているのですから景気がよろしいです。不景気の最中に、景気上昇の最中(さいちゅう/もなか)というネーミング。
この菓子をはさんで商談すればポジティブにならざるを得ず、どんなプロジェクトも成功しそうです。
[出世の石段]
近頃、「出世」なんてとんと聞きませんが、ビジネスパーソンたるもの出世を望んで何が悪い。
いつまでも国をあげて意気消沈しているわけにはいきませんので、植木等のようにスイスイと出世することを望見ます。出典は、徳川家光の家来が馬術で名をなした逸話です。
いずれも、ビジネストークの接ぎ穂に、メディア露出に、便利な「ものがたり」ですね。
< 景気・ネーミング・歴史 >の三題噺でご活用ください。
ちなみに、私のネーミングでの代表作は [ノートパソコン]。
いまはカテゴリー名称になってしまいましたが、もともとはEPSON、NECのために私がネーミングしたものです。
それまで「ラップトップ」と呼ばれていた折りたたみパソコンに、電車で移動する日本人がラクに持ち歩ける新カテゴリーを誕生させました。
この実績もあって、商工会議所様ではネーミングのセミナーに数えきれないほど登壇しています。
その経験のなかで、商品開発をしたとき、ネーミングを発売まぎわにバタバタと決めてしまう企業のなんと多いことか! と感じています。
世に広めるべきよい商品であるのに、平凡なネーミングをされ、そこそこのパッケージに包まれ、無名の中小企業から発売される──。
それでは、中小企業のハンディを超えられないのです。
ぜひ、注目されるネーミングを発案し、とにかく目立ち、見出され、売れるレールを敷いてあげることに取り組んでほしいのです。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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