ネーミングする価値
週末は、ややゆるいネーミングの話題をお届けいたします。
1■ネーミングが習慣をつくる
「[イクメン]ということばができたおかげで…」
男性社員でも育児休暇がとりやすくなりました、とテレビ番組でどちらかのパパがしゃべっていました。
たしかに「草食系男子」とネーミングされたことで、「じつはボクも…」「やっぱり、あいつも!」と各地で認証(?)が広がり、そこらじゅうで男子が草を喰(は)むようすが目立つようになりました。
「LGBT」というキーワードで受けとめてよいとなれば、ケアや対策も立てやすくなりますよね。
いまでいえば、「テレワーク」、「リモートワーク」などですね。
古くは、NTTが「カエルコール」とネーミングするやいなや、サラリーマン諸氏が「あ、カエルコールしとこ」とつぶやくシーンが激増。
おそらく当時の家庭コミュニケーションはよくなったのではないかと想像されます。
戦略的に習慣化を狙いがちなサントリーは、ネーミングに限りませんが「金曜日はワインを買う日」、「二本箸作戦」(和食店にウイスキーを押し込む)、「トゥワイライト・キャンペーン」(カクテルを飲もう!)、そして最近は「ハイから」(ハイボールにから揚げが合います)など、やりたい放題。
同社の宣伝上手が伝わってきます。
ということで、ある現象にぴったりのネーミングが与えられたとたん、安定した地位が確保されたかのように、よくも悪くもそれは増殖していくのですね。
これは、やはり「言霊」の国、それとも付和雷同の国民性ゆえ?
ビジネス方面でいえば、ハマるネーミングがつきさえすれば、販売促進のよきスイッチは押されたがごとし、でしょうか。
つまり、名付けりゃ、勝ち。
というか、名付けることが価値、です。
ブランディングという終わりなき旅も、そのスタート地点はネーミングですし、人の一生と同じように、モノも名前を得てはじめて認知されます。
商品は、多産多死の世の中ですが、一つでも多くの可能性へと細胞分裂させていくための、有効な第一歩がネーミングだと思います。
2■季節ネーミングで売る
毎年、受験シーズンを迎えると、スナック菓子のネーミングが変わり、季節限定パッケージとなって販売されます。
受かりたい受験生の切実に刺さろうとするスピンアウト商品たちですね。
もっとも有名な[キット勝つ](キットカット、ネスレ日本) をはじめ、
[うカール](カール、明治製菓)
[勝てオレ](カフェオレ、AGF)
などが目につきます。その他、
[きっちり通る](キシリトール、ロッテ)
[Toppa](Toppo<突破>、ロッテ)
[うカレーめし](日清食品)
のような苦しいダジャレが多いなか、久々に(いいね!)と思ったのが
[勝ちグミ](UHA味覚糖)
これは選挙でも使えそうですし(有権者に配るのは違法ですけれど)、起業家やビジネスマンの日常的願望の受け皿にもなれそうですね。
その他、
[合格するぞハッピーターン]、[勝ちの種](柿の種,亀田製菓)
[がんばれ!受験生 麺づくりで点づくり]、[俺は勝つ](マルちゃん)
[さくらさくぱんランド](さくさくぱんだ、カバヤ) など。
五角形の合格箸も健在ですし、神仏にも藁にもすがりたい受験生とその家族を、ちょっと脱力気味に応援するというテイストは、わるくないですよね。
そもそも商品開発のテーマ探しに際して、菓子業界はネーミングからスタートする会社も多いのです。(ほかの製造業さんはちょっとびっくりしますよね?)
3■凝りすぎネーミングの罪
ただ、ネーミングに時間をかけるとしても、凝りすぎて失敗してしまうケースも散見されます。
以前、文具メーカーの広告の仕事をしているとき、メイン商材のひとつに付箋がありました。
その商品ネーミングは[フィットメイト]というのですが、それを知ったある無関係な会社の役員さんでバイリンガルの人がニヤニヤしながら
「それはまた、色っぽいネーミングですなぁ」
と言っていました。
どうも、そういう意味に聞こえるようです。
(先ほど、ググってみましたら、同名のトレーニングジム・器具や、ランドセルの補助器具もあるようですね。)
世界的な外資系化学メーカー・3M社の有名な付箋、[ポストイット]の模倣だと言われればそれまでのネーミング。
その段階で、すでにしくじってしまっていますね。
ちゃんとネーミングは考えなければならない。
そう思わされたのが、やはり付箋の[magnetic NOTES(マグネティックノート)]という凝ったネーミング。
この商品、接着剤ではなく静電気でくっつくという非常に画期的な機能性を持っていますが、それがネーミングからまったく伝わってきません。
マグネットが磁石だから、と思っても、付箋がくっつくのはあたりまえ。
いまではデスクの上に必ずPCやスマホがあるので、ホンモノの磁気系は困ります。
そもそも「ノート」を名乗っていますから、付箋の属性ではありません。
このネーミングにはサブ的についている商品ショルダーがあるのですが、これが「魔法のふせん」。
なるほど、「ふせん」だということはわかる。しかし「魔法の」ですから漠然としているうえ、昭和の感覚。
それでも売れているのはテレビが紹介したことがきっかけでしょうか。
その幸運がなければどうなっていたか心配なところです。
この場合は、いろいろ考えずに、ネーミングは
[静電気でつくふせん]としなければなりません。
つまり、新しい概念の商品には、わかりづらい凝ったネーミングは禁物なのです。
と、考えて念のために検索したところ、なんと100円ショップのダイソーでは[静電気でつくふせん]そのままの商品があるのです!
まぁ、模倣品なのかどうかは知りませんが、ネーミングのテクニックではダイソー社に軍配があがりますね。
似た話では、新宿駅南口のファッションビルの事例。
JRの駅ビル運営会社ルミネが始めた[NEWoMan(ニュウマン)]。
チカラを入れたプロジェクトだからこその、凝ったネーミング。
ところがこれが、初年度からして売上高目標(200億円)を大幅に下回る成績だったそうです。
まったく新しい[ニュウマン]という、親しみのないしっくりこないネーミングが原因のひとつになったのではないか、と。
ルミネなのですから、わかりやすく[ルミネ 新宿3]とか、[ルミネ南館]などとしておけば、もう少しましな結果になったことでしょう。
「ネーミングはよく考えなきゃだめです」とはいうものの、考えすぎてもNGなのですね。
次回は、さらに深刻なネーミングの失敗についてお伝えします。
ぜひチェックしてみてください。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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