データ・統計を使いこなす方法

データ・統計を使いこなす方法

前回記事の終わりに、繊細な調査データは中小製造業には不釣り合いである、という意味のことを書きました。

それを受けて本記事では、統計、ビッグデータ、そして経済予想。コロナ後の試練も含め、経済動向の雑感を書きました。
(むずかしそうですが、むずかしい内容ではありません。所詮、文系の人が書いています)

 

■弓削のコンサルティングで業績は1割アップするか?

たとえば、弓削が売上げを1割向上させるコンサルティングをしたとします。

全国に営業所があり、営業員が300人いて、その商品の売上が20億円もある大手メーカーなら、売上は2億円アップし、利益金額は20%ていど高くなるでしょう。

この結果は、統計における閾値を超えた母数集団なので再現性が担保されたことによるものです。

 

一方、社員数8人の中小製造業で、営業要員が兼任も含めて2人の会社ならどうでしょうか。

1人が月間で1〜2件、年間18件ほどの新規開拓をしていたとすると、
改善後は18件×1.1で19.8件です。

ただし、営業要員の1人であるAさんは20件に増えたものの、
もう1人のBさんは逆に17件に減ったりするかもしれません。

この場合、年平均36件が37件に増えるだけなので、2%しか改善しなかったことになります。

デコボコをならしても、全体では1割増えるケースもあれば、逆に減ることだってあり得ます。

何しろ、「被験者」は「2人」であったりするので、その結果が有意な数字とならないのです。

 

ここに、繊細な数値データよりもヒューリスティック※を優先するべき根拠があります。

※ヒューリスティック=経験則に基づき、大きく間違えてはいない解答を短時間に導き出す手法。

 

■ビッグデータに従えば間違いないか?

近年はビッグデータが、手にとって眺められるところまで降りてきていますので、その数値傾向は尊重しなければならないとは思います。

マーケティング調査の有効性とも併せて語らなければならない事象でもあります。

しかし、支援先のものづくり企業の業績を見ていても、そうしたマクロな数値と軌を一にしない経営があることも事実です。

どれほど似ていても、まったく同じ商品は二つとなく、会社の商圏も異なれば、繊細なデータは行きどころをなくします

 

あるいは、中小製造業は、仮にマクロ指数や世界経済が絶不調であったとしても、たまたま取引先の3社が好調なら、まったく問題がないのです。

マクロ経済や為替レートが業績に即、影響してくるのは、大手メーカーのほうなのです。

中小製造業は、1社、2社のみへの高依存度は希釈していく必要があるものの、半径5キロの有利さも享受すればよいのです。

 

■統計予想を先取りした経営は成功するか?

理系やエリートの人たちは統計を見える化して、経済予測をしてみたりします。

われわれ庶民は、その予測に一喜一憂したりするのですが、およそこの経済予測が当たるということがありません。

例をあげます。

バブル期の株価予測。

当時、日経平均が3万8千円ほどにまで上げたとき、野村総研のアタマのいい人たちが寄ってたかって将来予測をしまして、「日経平均は8万円になる」と予測を発表しました。

結果的には、ご存知のように、このときをほぼピークとして株価はダダ下がりし、一時は7,000円にまで行きました。

 

仮に、何かの数値からこういうグラフが得られたとします。

理系の人やアタマのいい人は、上のようなグラフを見ると、下のように予想するのですね。
心の声 (このデータ傾向が続くと、当然のことながらこのようになっていきます)

ところが、文系の人やストリートスマートな人たちは、次のように考えます。
心の声 (そんなに一辺倒に続くわけがない、そろそろ潮目が変わるだろう、知らんけど)

こうしたバランス感覚がないと、落語などで語られる、「8月で暑いね、いまこんなに暑いんじゃ、12月にはどうなることやら」というくすぐりを笑うことができません。

 

■世界中が株価を予想するモードになったのはなぜか?

成熟経済に入っている先進諸国がリードする世界市場となり、経済に対する知識が行き渡ってみると、景気の周期を読む人たちが増えてきました。

直近で、とくにわかりやすいヒントとなったのがリーマンショックです。

「リーマンショック並み」「リーマンショック以上」などのように、これが尺度になりました。

そこから、「じゃ、今回はリーマンショックをどうなぞるのか?」という予想合戦が世界中でおこなわれた結果、株式市場の大暴落を予想してカラ売りを仕掛け、株価が落ちきらないままに憤死する投資家も多数

経済新聞も、株価が持ちこたえている理由を記事に書けず、悩むばかり。

手練れの投資家が、「いつもは不況の先導者である銀行、金融機関が傷んでいない」ことを根拠にロングを仕掛けてきてか、はたまた半年先の経済環境を投影してか、市況は落ち着いたままなのです。

 

■予想をしてもこの世では報われないのか?

弓削の支援先企業は製造業のみではありますが、多彩なビジネスモデルを見ることができます。

エンドユーザー向けの商品を持つA社は、ネット通販を機軸として強気な展開。

自治体向けのビジネスで安定しているはずのB社は、今後、先細るはずとの見通しを打ち明ける。

切実な顧客層向けの商品を持つC社は、リモートワーク以外はまったくの平常心。

建設会社D社は、今後は停滞があると読んで、一部の事業を縮小へ。

 

その他の各社も、市場をどのように解釈したらよいかに腐心しています。

予想は、往々にしてハズれると思いながら、やはり予想せざるをえないのがビジネス。

仮にハズれるとしても、そのハズれ方が知見となって、血肉となり、次の危難を乗り越える糧(かて)となるのですね。

 

 

 

製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。

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本コラムは、ものづくりの現場での気づきや日々の雑感、製造業のマーケティングや販路開拓に関するノウハウなどをお伝えするものです。 お気づきのことやご質問、ご要望などがありましたら、お気軽にメッセージをお寄せください。

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