コロナ後の、ものづくり
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言後の世界。
そのとき、中小製造業はどうなっていくのか。
何が課題で、どのように対応していったらよいのか……。
大手企業の視点からのサプライチェーン課題や、グローバルな変化に対して言及するサイトはあるようですが、中小製造業の視点から語る記事はないようですので考えてみました。
■中国製造業は空洞化へ
一般的には世界の工場としての中国の地位は揺らがない、とする見解が多いようです。
新聞を読んでいると、そのような感触を持つのでしょう。
日本の国内メディアは報道していませんが、中国に対するファイブ・アイズ、とくに米国の対応は激しさを増しています。
(ファイブ・アイズ=米・英・豪・加・ニュージーランド)
もともと武漢ウイルス以前の段階で、5Gとファーウェイ問題、新疆ウイグル自治区での人権蹂躙、臓器売買、香港デモ問題などで中国に対する見方は相当厳しくなっていました。
いま、追求が起きているのは、人人感染に気づいた中国が2020年1月以前にマスクや防護服の大量買い占めを進めていたという問題です。
マスクは世界中から220億個以上を買い集めていたとされ、日本のマスク不足がいつまでも続いていた原因のひとつです。
これまでも、日本は中国でさまざまな辛酸を舐めてきました。知財の剽窃や売掛金回収、人件費高騰などの問題のほか、反日暴動や今回のような新型ウイルスといったリスクです。
弓削は商工会議所様の工業部会などでスピーカーを務めるたび、中国には行かない、取引しない、と10年前からものづくり企業に説いてきました。
大手企業の代表からなる経団連は中国に取り込まれている印象ですが、セキュリティ上の問題が明らかになれば、さすがに一部は中国離れが起きるでしょう。
イタリアなど特殊な関係国を除けば先進国はもっとはっきりしており、これ以降は中国製造業の「空洞化」が進むことは間違いありません。
↑ 中国深セン工場見学時の写真。中央右の白いズボンが弓削。
■新規サプライヤー探しがはじまる
そのあと押しをするため、日本政府は中国の生産拠点を国内回帰させる企業に対して2400億円の予算を組み、費用の3分の2を補助する予定です。とくに人工呼吸器や防護服、マスクなどについては4分の3を補助します。
また、中国依存に偏っているフッ化水素の生産設備や電子部品、大型プレス機、高性能3Dプリンターに対しても注力するとしています。
こうなると、少々コスト高でも国内製造に移管される製品、部品は多くなるでしょう。
つまり、国内サプライヤー探しがはじまるのです。
現在、中小工場の8割以上が復活しているとのことです(セル式の生産ラインなら3密じゃないですね)。
今後、緊急事態宣言が緩和されていくなかで、あなたの会社にも新たなサプライチェーンへの参加オファーが届くことでしょう。
実際、どのような回帰、分散、統合が起きるのかは業界や分野によりますし、リーダー企業の動向次第という部分もあります。
自動車産業のようにグローバルな縛りが起きている象徴的な分野や、中国政府側の注力産業はなかなか動くことができないでしょう(有利な条件を提示されるため)。
■国内生産現場の変化と対策は
国内生産でのコスト整合性を考えると、ロボット化やAI導入が大きく加速することも見込まれます。その過程で、工作機械のマルチ化、汎用機化が進むのではないかと考えています。
また、3Dプリンタの万能化も進むのではないでしょうか。
中小ロットの部品をサクッと間に合わせられるように。
“汎用”旋盤やフライス盤、ボール盤のように、入力次第で加工できる範囲が拡大したマシニングセンターなども求められるでしょう。
その他の一部は、中国以外のアジアへ転身することになりますが、一帯一路の国々はNGです。
ファイブ・アイズが一帯一路の国々のセキュリティ上のリスクを問題視するかもしれないからです。
そうすると、パキスタン、マレーシア、ラオス、カンボジア、ミャンマー、モンゴルなどはアウト。フィリピンやインドネシアも微妙です。
ベトナムやインドなど、真っ向から中国と反目している国でなければなりません。
これまでのところ、製造業はサービス業や飲食業のように深刻な影響は受けていません。
また、ネット通販、遠隔システムのような好影響も受けていません。
しかし、今後の景況に振り回されることは避けられないでしょう。
それに対応するためには、準備と対策が必要です。
国内回帰やサプライチェーンの組み直しへの対応、あるいは医療・セキュリティ系商品製造への展開、生産ラインのロボット化・自動化など。
一方、販路開拓やルートセールスに関して、人的な訪問営業はますます微妙です。
電話の復権(?)など、会わないけれど人肌を感じる接点のつくり方がカギになるのではないでしょうか。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削徹でした。
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