いいね! と思ったキャッチコピー
言葉を的(まと)に仕事をしていますから、「おっ、いいね!」と思うキャッチコピーがあったら、必ずメモしています。
今日は、まず街やテレビ、雑誌などで見かけて「いいね!」とメモをしたキャッチコピー作品をご紹介して、そのあとキャッチコピーの書き方について述べます。
■弓削が「いいね!」と思ったキャッチコピー
「冷やすことに熱すぎる会社。」フクシマガリレイ(旧・福島工業)
業務用冷凍機や製氷機を製造してるメーカーです。「冷やす」技術に打ち込んでいるさまを、反対語の「熱い」で表現すことでフックを効かせました。
B2B企業ですが、こうしたソフトなメッセージを伝えることは人材採用にも効果をもたらしますね。
「ナンバーワンの結婚相談所にしかできないサービスを考えました。」パートナーエージェント
うまいすり替えですね。「ウチはナンバーワンです」とは言っていない。
ナンバーワンでなくても、“ナンバーワンにしかできないサービスを考える”ことはできます。でも、受け手は(ここはナンバーワンなのかな)と思ってしまう、非常によくできたレトリックです。
ただし、医薬品などで同様の表現を使うと、行政からの指導が入る可能性があるので注意が必要です。
「カニではありません。」カネテツ
練り物食品メーカーのキャッチコピー。
いわゆる「カニかま」に[ほぼカニ]というネーミングの商品がありまして、パッケージには但し書き(カニではありません)があるものの景品表示法ギリギリの名称です。
その但し書きまんまをメッセージにしました。
そう断らなければカニと思ってしまう人が続出するのでは? と思わせる、とぼけた表現です。
ちなみに、インスタントラーメン、レトルトカレー、カニかまは、戦後の食品3大発明と言われています。
「ハウスクリーニングがまあまあ安い!」くらしのマーケット
これも、微妙ですよね。
「安い!」とは言わない。「まあまあ」をつけることによって、いい加減というより良心的な自己紹介だと受け止めてしまいそうです。
だいたい、こうしたサービスはあまり安すぎても品質に疑問符がつきますので、この中途半端さがちょうどよいのかもしれません。
「2億円事件」幸楽苑
いまでこそ多くの飲食店が休業していますが、これは従業員ケアのために元旦営業をやめますという宣言広告です。
そして、その休みによって失われる売上が2億円にもなる、ということで数字を使ってインパクトを狙ったキャッチコピーになっています。
以上、振り返ってみますと、自分(弓削)は書かないタイプのキャッチコピーが多いと思いました。
次項は、キャッチコピーの書き方につきまして、「これを守れば及第点以上が取れる」ノウハウについて書きたいと思います。
■及第点を超えるキャッチコピーの書き方
さて、キャッチコピーを失敗せずに書くには、ウリをきちんと特定することと説明しています。
でも、自社の商品に限って、それを認識しづらい。
そのためには、次のように考えたり、自問自答してみてください。
・商品の仕様、機能、特長は何か
↓
・それによってお客様にはどんなメリットがあるのか
では、実際に事例を通してキャッチコピーにたどり着いてみましょう。
↓ ↓ ↓
[例1]
まずはヘンな事例を挙げて考えてみましょう。
そのほうが逆に客観的にわかってもらえるかもしれませんので。
「鍛冶源の日本刀は樋入りです」(仕様・特長)
「樋」とは、日本刀の峰近くに掘られた溝のことです。
わざわざ刀に「樋」を入れるのは、ユーザー(江戸時代の武士)にとってなんのメリットがあるのでしょうか。
見た目には美しいかもしれませんね。
でも、溝が切られている分、刀身は曲がりやすくなるかもしれません。
曲がった刀身を修繕するのも、きれいには仕上がりません。
ユーザーにとってのメリットには、じつは諸説あるのですが、もっとも説得力があるのは、敵の身体から引き抜きやすいから、というもの。
刀を相手の身体に突き刺すと、筋肉が収縮してピタリと密着してくる、そのときに空気が入って抜きやすくするためだというのです。
その他には、刀身の重量を1割ていど軽くするためという説もあります。
私は、ゴルフボールがディンプルによって真っ直ぐ飛ぶように、刀身にも溝があるほうがブレずに居合いで斬り下ろすことができるのではないかなどと想像もします。
ということで、刀を買い求める武士に対しては、ただ単に「樋が入っています」と言うだけではなく、実戦時のメリットを伝えるべきです。
ですので、キャッチコピーは次のようになります。
「突き刺したあとの、二の太刀が速くなる!」
怖い作例でしたね。
[例2]
たとえば、「デザートの新シリーズが冷凍保存可能になりました」(仕様・特長)
冷凍保存になっても、フワフワの食感が変わらないのなら、エンドユーザーにはメリットのように思えますね。
でも、ユーザーは買ってすぐ食べたり、1、2日ののちに食べるのなら、チルド(冷蔵保存)でもいいわけです。
冷凍保存になってありがたいのは、じつは流通サイドです。商品を流通させたり在庫する問屋さんや食品スーパー、コンビニですね。
冷凍保存によるメリットを伝えるのなら、展示会などで流通バイヤーに向けてキャッチコピーをつくることになります。
「人気のふわふわ食感が、冷凍保存で6ヵ月長持ち!」
[例3]
よくある事例についても書いておきます。
「全工程を社内で一貫生産」という(特長)です。
これによって、ユーザー企業は、「だから?」と言わざるをえません。
以前にも書きましたように、サプライチェーン寸断のリスクを避けるなら、一貫ではないほうが安心かもしれません。
ここは、「なぜ一貫生産だと、あなたにメリットがあるのか」を書くことが求められます。
キャッチコピーの例としては、
「万一の不具合にもスピード対応が可能!」
「“ほぼ丸投げ発注”にもお応えします!」
などになるでしょうか。
[例4]
最後の例は右脳系商品。シャンプー、トリートメントです。
「洗浄成分にアミノ酸を使用」(仕様・特長)
シャンプーの洗浄成分には、アミノ酸、石油、石けんの3種類があります。
(ドラッグストアや通販で買う一般のシャンプーはほとんど石油系です)
そのなかで、毛髪、皮脂に性質がいちばん近いとされるアミノ酸を使うと、どういう効果があるのかをキャッチコピーに仕立てます。
「傷んだ髪を修復します」(メリット)
アミノ酸が傷んだ毛髪の空隙に浸潤して修復してくれるとされているわけです。
でも、右脳系商品のキャッチコピーでは、それより先に行く必要があります。
「髪に、ハリ・コシ・ツヤがよみがえる」
「美しいモテ髪ができあがる!」
ね。
……さて、ヘンな例を通じて、キャッチコピーを書くコツをご理解いただけましたでしょうか?
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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