顕在化するチャイナリスク 1
「中国に進出したり、依存してはダメですよ」。私がセミナーでそう語っていたのは2012年頃のこと。
近年、そのリスクが顕在化し、中国を出てベトナム他に向かう企業が増加しています。
しかし、専門家は「ベトナムに中国の代わりは務まらない」と言います(日経ビジネス2020/2/3号)。
ベトナムには「香港(フリーポート)」がない、生産者に高付加価値技術の集積がない、というのがその論拠です。
中国には、生産は内地でするものの、香港の発着で関税のメリットを享受できる仕組みがあるが、ベトナムにはそれがないというわけです。
技術の面では、高付加価値の生産拠点はいまも中国に残っている、ベトナムはその部品や半完成品を輸入して生産できているに過ぎない、というのです。
しかし、私の見方は全く逆です。
いずれのポイントも、時間の問題に過ぎないと考えています。
まず中国は、香港というフリーポートを自ら手放そうとしている。
米国は香港の民主主義が失われるなら、関税上のメリットを取り消すと宣言しています。しかし、中国が香港の民主制を今後も守るとは考えられません。
高付加価値技術という点も、同様です。
中国の工場が“どうしようもない”低レベルであったという話はいくらでも聞いたことがあります。
それを、日本人が根気よく教え、さとし、育ててきたのです。
例1) 納品された靴のすべての左足のかかとから釘が出ていることに驚いて中国側に確認すると、渡したサンプルについていた陳列棚にかける釘を「見本どおりにつけた」と言われた話。
例2) ジャンパーに「B」という文字をわざと胸にヨコ向きでレイアウトして指定したのに、「気を利かせて」すべてBをタテに縫いつけてきた話。
ユニクロの凄みのひとつは、中国人を使ってあのクオリティを叩き出している点です。
私は深センや広州に工場視察に行ったことがありますが、すぐれた技術を持っている工場は日系の工場で、社長や工場長も日本人でした。
また、支援先の工場へ研修に来ているベトナム人を何人も見たことがありますが、とても冷静でレベルが高いと感じました。
手先の器用さという点でも、ベトナム人は日本人、中国人にひけをとりません。
ベトナム戦争に勝利した要因のひとつは、武器を巧みに操る器用さがあったとされるほどです。
日本以外で中国と戦争をして勝利した国は、アジアではベトナムしかありません。
中国がウロウロしていた地点とは比較にならない高みに、すでにベトナム人は到達しているといえます。
さらに、ベトナムには反日政策や反日教育はなく、ひどいウソもありません。
中国の工場は、驚くようなエピソードに満ちています。
例1) 工員を一人も雇っていないのに、近くの工場から口銭を払って集めた人員で盛大に稼働しているように見せかけ、「生産体制には問題ない」と語る総経理(社長)の話。
例2) 勝手にスペックダウンして生産し、それが原因で日本の発注元がユーザー企業に訴えられた話。(ボトルを薄くしていく、鉛の入った安い塗料に変える、電線ケーブルを細く断線しやすいものに変える、などいろいろ)
例3) まったく同じ生産ラインを持つパクリ工場を隣地に建てられ、工員もごっそり引き抜かれた話。
中国と付き合うリスクは、まだあります。(次回へ続く)
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削徹でした。
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