普通名称を商標登録するワザ
「ネーミングを商標登録する」の記事で書いたように、普通名称なので商標登録できないネーミングは意外に多くあります。
本記事では、それらの事例と対処法について解説します。
■何が普通名称なのか?
先の記事で、他社の登録商標と類似していたり、普通名称であるもの、公共機関と紛らわしくて公益性を損なうものは登録できないと書きました。
となると、「普通名称って何よ?」という疑問が、とうぜん湧いてきますよね。
デスクに「デスク」とネーミングしても普通すぎて商標登録できないのはわかる。
テレビに「テレビ」もダメ。パーソナルコンピュータに「パソコン」、靴に「シューズ」もNGですね。
普通名称の定義を法律的に見ますと、商標法第3条には次のように規定されています。
・その商品の一般名称であると認識されているもの。略称や俗称も普通名称になる。
……アルミニウムに[アルミニウム]、[アルミ]など。
・もともとは商標であったが、同業者が普通に使用したため、もはや区別がつけられなくなった名称。
……清酒に[正宗]など。
(これは、意外に多いのです。次項目に普通名称化しているネーミングの例を挙げてみます。)
・商品の産地、性質を表す名称
……東京で生産する菓子に[東京]、シャツに[特別仕立]
すでに言及しましたが、(はちみつレモン]や[桃の天然水]、[スーパードライ](後述)などは一般的な名詞や形容詞であるとして、商標登録が認められませんでした。
・ありふれた氏名
残念ながら、[株式会社佐藤]など。
ということで、リンゴの品種を「アップル」としたらNG。しかし、「アップル」というパーソナルコンピュータなら、登録が可能なわけですね。
ですが、この「普通名称」かどうか、という判断は知財専門の裁判所で争われることもあるくらい、実は微妙な問題です。
■登録商標だったのに抹消!?
弓削のプロフィールをご紹介いただくとき、いちばん「まじッ?」という反応が出るのが「[ノートパソコン]の名付け親です」というところ。
当時、パソコンに「ノート」というイメージはなかったので、商標登録ができたわけです。
しかし、いまとなってはまさに普通名称なので登録できなくなっています。
では、その他にはどんな例があるでしょうか。
[エスカレーター] ──もとはエレベータで知られるオーチス社の登録商標でした。1950年に権利を放棄し、現在ではまったくの普通名称に。
[正露丸] ──前回記事でもチラッと触れました。大幸薬品の登録商標でしたが、競合が同一ネーミングで商品を発売したため提訴したところ、逆に登録抹消されてしまいました。
[ホッチキス] ──最近はステープラーと呼ばれることも多いホッチキスですが、イトーキの商標権が消滅して普通名称に。
[NPO] ──角川書店が登録しましたが、のちに取り消されました。
[うどんすき] ──美々卯の登録商標であり、抹消されてはいませんが、高裁では普通名称化したとの判断が下されています。
[ホームシアター] ──富士通ゼネラルの登録商標でしたが、1999年に無償開放されました。
[ビジュアルノベル] ──ゲームジャンルの名称としてコナミが登録出願するも、拒絶。
[ブラウザ] [フルブラウザ] ──いずれも、NTTドコモが出願したが拒絶。
[招福巻] ──そろそろ季節の恵方巻のひとつですが、スーパーのイオンが登録、他社が権利を主張して係争となったのち、大阪高裁が普通名称であると判断しました。
このほかにも、[ポケベル] [サニーレタス] [メカトロニクス]、また[ウォークマン]はオーストリア国内では普通名称化したと判断されています。
…以上のように、自社製品のネーミングが普通名称化してしまい、他社もその名称を使用できるなら、いわゆる差別化の効果は一切なくなり、ブランド価値を失ってしまいます。
誰もが知っている有名なブランドをめざし、実現してたどりついた頂点の対価が「ゼロ」であるとは、なんとも皮肉な経済現象といわざるをえませんね。
■普通名称かと思ったら登録商標
一方、普通名称なのでどこの会社の登録商標でもないだろうと思いきや、登録されているという例もたくさんあります。
有名なところでは、[セロテープ]。
ニチバンですね。一般にはセロハンテープと呼ばなくてはなりません。
[デジカメ]
これ、なんとパナソニック(旧三洋電機)の商標です。
普通に使用するぶんには権利侵害を訴えない方針とのことです。
しかし、「○○○社のデジカメ。」という表現はNG なのだそうです。
[プラモデル]
これはマルサンの商標です。
ちなみに[ガンプラ](ガンダムのプラスチックモデル)は、アニメ制作会社の創通が商標をとっています。
[ラジコン]
増田屋がもっています。
[プリクラ]
プリント倶楽部の略。セガの商標です。
[着メロ]
ビジュアルアーツが登録しています。
[写メール]
旧ボーダフォン、いまはソフトバンクのものです。
[パトライト]
パトカーのライト。ちなみに登録会社名もパトライトです。
[セメダイン]や[ボンド]も、セメダインやコニシの登録商標です。
変わったところでは[LOHAS](ロハス)。しかし、これも他社から使用料を取ることはあきらめているようです。
そのほかにも[宅急便]、[クレパス]などもあります。
以上は、いずれもNHKのアナウンサーさんが注意しているところですね。
見てきたように、省略形ネーミングが多いことに気がつきます。
(“省略形”とは、東洋レーヨンを東レ、前田敦子をマエアツとするような略し方です。)
一般商品名を日本的省略形にしたワードが、意外に商標登録されているのですね。
ただし、先述のようにいつ登録を抹消されるかわかりません。
■普通名称のため登録できないときの対処法
商標登録しようと思ったネーミングに類似商標があるなら、あきらめるか、買い取れないかと考えますが、「普通名称のため」登録できないと言われると納得がいかない人もいるかもしれません。
では、どのように対処したらよいでしょうか。
たとえば、ある洗浄剤は単純に「キレイ」では登録できないので、[キレイキレイ]という親しみやすい繰り返しによって個性を出し、登録に至っています。
またシューズメーカーは「ワラジ」のような履き心地の靴に「ワラジ」とネーミングしても登録できないので、[ワラッジ]と1音足すことによって登録に成功しています。
あるいは、「ファッション」で登録できないので、[ファシオ]に変えて登録を受けている化粧品メーカーもあります。
このように、言葉の一部だけをおしゃれに(?)変えることで登録できる道はないか、ぜひ検討してみてください。
こうした事情は、海外や英語圏でも同様です。
いま、あなたのそばにブルーレイ・レコーダーがあるなら、そのロゴを見てください。
ブルーレイのロゴは、[Blu-ray]。
青い光ですが、「Blue-ray」ではないんですね。つまり「blue→blu」。
これは、あえて誤記に変えるという対策をとることにより、英語圏の国々で普通名称とならないようにしているわけです。
もっと身近なお菓子の例を見てみます。
受験シーズンには「うカール」キャンペーンを実施する明治の〔カール〕。
くるっとカールしている形状からいえば、英語表記は「curl」になるのですが、これも普通すぎて商標登録でないことをさけるために海外パッケージでは[karl]と変える対策をとっているのです。
一方、年来の努力によって普通名称を脱却した商標の例もあります。
冒頭近くで、[スーパードライ]は普通名称であるために登録できなかったと書きました。
商標登録できないので、同じネーミングの製品が市場にあふれ、ある意味でニーズは活性化しましたが差別化もむずかしくなりました。
その後、アサヒビールは市場での認知を合一させる活動に励み、他社が撤退したため、[スーパードライ]は拒絶から一転、登録が認められたのです。
※商標登録状況は刻々と変化しますので、誤りがあるかもしれません。その節はご容赦ください。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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