売り方はこう考える
売り方の基本は、「誰に、何を、どうやって」売るか、を決めることです。
「誰に」は対象となるお客様層。
「何を」は、買う理由となるウリのポイント。
では、「どうやって」売ればいいのか。
本記事は、これを思考していく手順とやり方について、ひとつのシンプルな解を示そうとするものです。
たとえば、ある商品の売り方を考える場合。
その商品の機能、特長、仕様をどんどん書き出して、どんな付加価値を生むのかを変換していきます。
例として、「米粉でつくるパン」という商品で考えていきます。
その特長は、
・米粉使用のパン
・小麦粉を使っていない
・食感がもちもちしている
・グルテンが含まれていない
・さっぱりした味わい
・コメは〇〇県産コシヒカリ100%
・石窯オーブンで焼くのでふっくら
このほかにも、徹底しているなら卵・乳製品不使用とか、玄米使用、低カロリー、アミノ酸スコアなど、訴求点はいろいろ出てきます。
まず考えたいのは、切実なニーズに刺さる特長はどれかということです。
たとえば、もちもち食感もうれしいですが、多くの人が「絶対にこれでなければ」と考えてくれるとは思えません。
もうお気づきのように、米粉パンなので小麦粉アレルギーの人も食べられる、というニーズがもっとも切実だと思われます。
その次は、グルテンフリーなのでダイエット中の人もやや後ろめたくなくパンが食べられる、ということですね。
以下、もちもち食感やコシヒカリ100%、石窯オーブンのこだわり、と続いていくのではないでしょうか。
このように、「機能、特長、仕様」から、買う理由、価値へと変換した「ニーズ」が導き出されます。
そして、それぞれのニーズには対応するターゲットがいます。
上記例で言えば、「小麦粉アレルギー」のニーズには、小麦粉アレルギーの人が対応します。
ところが、もっと切実な人は小麦粉アレルギーの本人ではなく、「小麦粉アレルギーの子供の母親」であったりします。
あるいは、まったくアレルギーなどないが、仕事が給食センターのレシピ担当だという人も、じつはさらに切実です。
職責として、アレルギーの児童へのケアをしなければいけない立場であり、誤った選択をすれば生命にも関わるのです。
つまり、B2CよりB2Bのほうが、市場投入時の垂直立ち上げに向くかもしれない、などと考えられるわけです。
このようにニーズ選定、ターゲット特定を経て、キーワードや表現を考えていきます。
このとき、最適なニーズボリュームを選んでキーワードやキャッチコピー、ストーリーを発想していきたいのですが、そのとき弓削がアタマに思い浮かべているのは次のような図です。
これは、ニーズの市場ボリュームを表しています。
これらは月間検索ボリュームや、既存商品の売上データ、当該協会などの調査白書、amazonでの順位や、ヒューリスティックなどから構築します。
上に行くほど太くなっているのは、市場ボリュームが大きいということです。
下に行くほど細くなっているのは、市場ボリュームは小さいけれど、切実さは増していることを表しています。
狙うのは、とうぜん大きい市場ボリュームですか?
ちょっと待ってください。
大きな市場ボリュームや、成長市場は大手企業のフィールドですね。
商品分野にもよりますが、多くの場合、ここで戦おうとすると価格競争を強いられたり、全国の売場を押さえなければ勝負にならなかったり、のちには新興国の企業が考えられない低価格で参入してきて市場をぶっこわして、ひどい目にあったりします。
かといって、切実に求めてくれる下の細い部分を狙うと、市場ボリュームが小さい、つまりニッチすぎてお客様数が少なく、売上が立たなかったります。
ということで、狙いたいのは、中間に位置する市場ボリュームなのです。
このことは、よくセミナー講師仲間に説明したりしています。
どういうことかと言いますと、講師が決めるセミナータイトルが、けっこう微妙なことが多いからですね。
セミナーのコンテンツそのものがいいかどうかは別として考えますと、ここでも最適なタイトルをつけることができるのです。
市場性 大 「誰でも聞きたそうなテーマ」 → 「コロナ後の日本はどうなるのか」
市場性 中 「限られた人の重大関心事」 → 「コロナ後の商品開発はこう変わる」
市場性 小 「一部の人しか反応しない話」 → 「コロナ後の電磁石市場の変化と推移」
「大」ですと、誰もが聞きたいけれど、聞かなくてもだいじょうぶな内容になっています。
こうしたセミナー・講演は、著名評論家(=いわば大手企業)が講師なら成立します。
「小」の場合は、聞きたい人はいるので、ウェブで電子書籍として販売するなら成立するかもしれません。
結局、「中」の内容であれば、聞きたい人はそこそこいて、自分ごととして受け止めてくれるので、セミナー集客がちょうどいい具合になるのです。
ですので、セミナー・講演のタイトルは、こうした市場ボリュームの逆三角形を意識してつけると成功します。
もっと言えば、セミナー・講演のコンテンツを考えるときも、この逆三角形を思い浮かべながら組み立てていけば、多方面からおよびいただける内容となるのです。
話を、米粉パンに戻します。
最も切実なニーズ/ターゲットは、小麦粉アレルギーの児童をケアしなければならない給食センターのレシピ担当、あるいはアレルギーの子供を抱えるお母さんなのですが、ここを攻めるのは少し後のほうがいいなと判断します。
当初、狙うのは、「グルテンフリーで美味しくパン・ダイエット」などのキーメッセージでピンとくる人。
ほどほど切実で、ほどほど顧客数も見込まれるニーズとターゲットのセットです。
ここから、キーワードやキャッチコピー、ストーリーを組み立てて、売るための表現を考えていけばよいのです。
もちろん、商品や分野によって異なりますし、あなたの会社に営業スタッフがいないのか、いるのか、全国にいるのか、などの事情によっても大きく変わってきますね。
さて、商品をどうやって売ればいいか」の考え方としてお話をしてきましたが、じつは商品開発をするときも基本は同じ発想です。
商品開発の場合は、自社の「技術・機能」をどういう「ニーズ」「ターゲット」向けの商品として開発していくか、というようにアタマを切り替えていただければいいのです。
いつものように専門用語は使わないで書きましたが、以上のことはいわばマーケティングの中核といってよいことだと思っています。
ウェブ系の若いクリエイターのなかには、もっと詳細で数値を裏づけとしたマーケティング理論を説いている人もいます。
弓削は、そうした「28%よりも34%を取るべき」のような統計データ的裏づけは、中小企業のビジネス機会においては再現性がうすいと考えています。
つまり、全国に営業所がある、全国のタナに置かれている、ような大手企業向けの理論だということです。
大手企業はマクロ経済に生きており、中小企業はミクロ経済が棲み家です。
繊細すぎるデータは、営業スタッフが3人しかいない中小企業にとっては、追いかけるだけムダなのです。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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