マーケティング調査が失敗する理由
なぜ、マーケティング調査はうまくいかないのか。
本記事では、マーケティング調査が役に立たなかったり、失敗してしまう原因を次の項目などを見ながら一緒に勉強していきましょう。
●真実を聞き出せない5つの心理状態
●調査の有効性が失われた5つの理由
まず、前記事で書いたグルイン(グループ・インタビューやフォーカス・グループインタビュー)などが、実効性を発揮できずに終わってしまう理由。
これは、パネルさん(被験者)の5つの心理状態が、真実を引き出すうえでジャマしているのだと考えられます。
5つの心理状態とは、ウソ、見栄、サービス、無知、先入観。
ウソとは、心にないことを話すことです。グルインの場に慣れていない(あるいは慣れすぎている)ため、とにかく発言をまとめてカタチを整えることを優先したコメントになってしまうということ。
決してパネルの人に悪意があるわけではありません。
ホンネを表現するよりも、発言をきれいにまとめたいとする心理が意見や結論を曲げてしまう結果です。
見栄とは、自身の生活レベルや収入、趣味について見栄を張ってしまうこと。
前記事にも書きましたように、「こんなによい製品がこの価格なら、ぜひ買いたいですわ」といいながら、実はまったく買う気がない。
最近は、環境によいものに買う気を示すという環境見栄も発生しがちなのです。
サービスとは、せっかく回答を集めているからあれこれしゃべってあげないと悪いわ、と気を回して評論家のようにコメントすること。
「もっとこうしたら売れると思いますよ(私は買わないけれど)」のような状態ですね。
他人はどうでも、あなたの個人的な発言を聞きたいのに。。
無知とは、まったく使用実感も知識もないのに、知ったかぶりをして回答してしまうこと。
高級商材であるほど、この傾向は無視のできないものになります。
あるいは反対に思考停止になってしまい、「わからないです…」という回答になるケースも少なくありません。
先入観とは、テレビや友人が語っている世間並みのポイントを、そのまま自分にもあてはめて答えてしまうこと。
これらのハザードをスクリーニングして、“真水の定性回答”をレポートできる人は、あまりいないでしょうね。
そもそもマーケティング調査をおこなう目的は、大きく分けて2種類あります。
ひとつは、商品開発のテーマやヒントを見つけたいときなどにおこなうネタ探しの調査。
ひとつは、仮説や成果を検証するためにおこなう判断材料を入手する調査。
商品開発のテーマ探しでは、自由なナマの声を定性的に集めたり、ブランド認知度を定量で調べたりします。
グルインなどでの問題は、この定性情報が「うまく拾えません」ということでした。
後者の判断材料を集める調査のほうでは、どのような問題があるかというと、それは「仮説」を立てることがうまくいきません、という隘路です。
例をあげてみましょう。
ある既存商品が販売不振だとします。
その原因を突き止めてテコ入れをしたいので、そのための仮説を立てます。
市場自体が縮小してしまったのか、より強力な競合に負けているのか、海外に発注が流れているのか、などなど。
仮説を立てて質問項目にしますが、その中に正解がなければ、真実には近づけません。
「仮説」は前者のネタ探しのときにも必要です。
たとえば「どんな商品が欲しいですか」というあいまいな質問にパネルさんは回答できませんから、「こういう商品があったら買いますか」と具体的に問う必要があります。
これも、仮説なのです。
しかし、仮説を立てることはやさしくはないのです。
また、いまの日本の市場環境ならではの不都合もあります。
マーケティング調査が有効性を失ってしまった、あるいはおこなわれなくなった理由を、5つ挙げます。
(1)ニーズが多様化した
調査パネルの数を少々集めたくらいでは、バラバラなニーズを代表できません。
いわば、意見集約をする閾値の敷居(?)が高くなってしまったということです。
(2)定性的な顧客の声はネットでも拾える
いわゆる、ソーシャルリスニングとかですね。
Twitterやブログなどを、高度化した検索機能を活用してじっくり収集、閲覧してもいいわけです。
社内プレゼンなら、白書などの定量的一次データでもうまく料理すれば充分かもしれません。
(3)個人情報保護法によりリストの入手がむずかしくなった
名簿屋さんの利用も、いまやグレーとなりました。
モニターやパネルになりたい人(セミプロ?)のリストを持っている調査会社はあります。
また、ネットから条件に合う会社をピックアップしてリストに変換するようなソフトもいくつかありますね。
(4)経費削減で高額な調査費用の負担ができなくなった
これは、マーケティング調査会社がコストに見合う知見と結果とを提供してこなかったツケともいえるでしょう。
(5)マーケティングの役割が「何を売るか」より「どう売るか」に移った
商品開発には調査データがなければ心許ないと感じる向きもありますが、販促企画やメッセージの打ち出し方に調査結果が役立つ余地はそれほど大きくない、ということです。
インターネットで販路開拓できるなら、全体の5%ほどのニーズがあればビジネスが成り立つケースも少なくありませんしね。
かくして、マーケティング調査を求める声は小さくなっていく……。
ということになるわけですが、では大手企業はそれでもマーケティング調査をおこなっているのかというと、そうでもありません。
「マーケティング調査をやっても役に立たない」のでやめてしまった会社があり、「調査はするけれどあくまで社内対策」としてするという会社がある。
「どうせ新製品が売れるかどうかは発売してみなければわからないのだから、と「エイヤッ!」と販売するのです」と語っていた一部上場企業の開発担当者さんがいました。
あるいは、何にでも反対する固陋の役員たちを黙らせるために、「販売対象者へのマーケティング調査では、こんなに高い数値が出ています」とプレゼンをして、企画を通す人もいます。
その人にとってはリスクヘッジ、わるく言えば責任のがれですね。
大企業病にかかっている大手企業は、そんな後ろ向きな対策も必要なのですね。
さて、ということで、マーケティング調査へのダメ出しをしてきましたが、「では、有用なマーケティング調査はないの?」という問いに、次回はお答えしたいと思います。
どうぞ、ご期待ください。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
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