参入障壁をどう考えるか
比較的、時間のある8月。「参入障壁」というものについて考えてみました。
これから新規事業を検討する場合はもちろん、現在の事業について参入障壁を高めるためにできることは何か、についても書いています。
現業の維持・拡大をお考えであるなら、その実現可能な条件として読んでいただければ幸いです。
眼鏡フレームの聖地はどうなった?
鯖江(さばえ)市はメガネの生産拠点として知られていますが、最近はシェアを落としています。
もともと同市は、農閑期の副業として「初期投資の小さな」メガネフレーム製造をはじめました。
参入障壁が低かったので、みずからも選択しやすかったのです。
そのため、流通サイドでメガネの安売りが一般化すると、多くのシェアを中国などに奪われました。
現在でも残っているのは、一部の付加価値の高い製品のみです。
参入障壁を高くする、という戦略があれば、もっと長く独占的な地位が守られたのかもしれません。
さて、それでも製造業は全般的に参入障壁の高い業界であるといえます。
商業・サービス業などは参入障壁が低いため、レッドオーシャンが恒常的です。
多くの店舗は他店と同じものを売る運命にあるため、価格競争や好立地の取得、POPの工夫などに依存しがちです。
地方の商工会議所にキャッチコピー・セミナーの講師としてお呼びいただくとき、ご参加者のほとんどは店舗やサービス業の方がたであり、製造業の方は多くありません。
たとえば美容室のような業態では、数多く出店があって閉店も多い、多産多死。
これは、やりがい搾取の問題やスタイリスト(美容師)出身者にリーダーシップが備わっていないこと、独立出店に際して美容関係の問屋が資金貸与までして奨励することなど、別の要素もあります。
国内での起業熱は盛んではありませんが、男性が起業するならネットビジネス系がダントツに多く、女性で目立つのは人材派遣業、おうちサロンなどです。
これら起業のしやすい業態ほど過当競争になりやすく、事業拡大に成功する可能性は下がります。
ネットビジネスなどでは参入はたやすく、ブログを毎日更新するだけで広告収入やアフィリエイト収入を得られたり、YouTuberとなって動画を投稿することで年収数億という人も出ている状況です。
ネットビジネスでは、情報ディバイドが収益の根源であったりします。
ここで、「競争の戦略」の著者であり、「5つの脅威」で知られるマイケル・ポーターが提唱する参入障壁における8つの指標についてみてみましょう。
ポーターが定義する、参入障壁8つの指標
1 規模の経済性が働くか?
2 製品の差別化が存在するか?
3 参入に巨額投資が必要か?
4 政府による参入の制限や規制の危険性があるか?
5 仕入れ先を変更するコストは高いか?
6 流通チャネルの確保は難しいか?
7 規模の経済性以外に、コスト面での不利な点が存在するか?
8 参入に対し強い報復が予想されるか?
規模の経済性が働くか
各項目についてみていきましょう。
規模の経済とは、大量仕入れによる材料コスト削減が有利に働くような環境なら新規参入はむずかしい、ということ。
しかし、規模の経済が働く前提があったとしても、異なるコンセプトでの棲み分けができるケースもあります。
ハンバーガーチェーンでいえば、覇者マクドナルドに対抗するモスバーガーは二流立地、手作り、濃い美味しさ、というビジネスモデルでじゅうぶんに戦える土俵をつくりだしました。
さらにその後、「土俵はまだあるよ」と参入してきたのが、フレッシュネスバーガーです。
いまや全国に実店舗の流通チェンを展開していた大手が、ネット通販の店舗に負ける、という場面もめずらしくありません。
小売業で世界ナンバーワンであったウォルマートは、時間の問題で「Amazonに破れ去るだろう」とささやかれています。
Yahoo!がほぼシェア100%であった検索市場へ、Googleというどこかの馬の骨が参入、ページの価値に重みづけをして役に立つ順番に並べる、というアイデアでネットの世界をまるっとひっくり返すというドリームもありました。
製品の差別化が存在するか
「差別化」というキーワードで語られていますが、これはひとつにはブランド力です。
ある新進のメーカーが革製のバッグをつくったとして、それがどれほど機能性が高く、よいデザインであっても、ナイロン製のジャンク品質であるプラダに勝てません。
同様に、1回雨に濡れたら使い物にならなくなるシャネルの高級バッグにも到底かないません。
かつてダイエーはマクドナルドとの契約を検討しながら、中内氏が「こんなの自前でできる」と判断して自社ブランド(ドムドムバーガー)を立ち上げますが、その後ジリ貧に。
一方、ほぼ徒手空拳でマクドナルド契約した藤田田氏は、伝説的な成功譚をつむぎだしてみせたわけです。
ただ、どんなブランドも時代を超えることはむずかしく、やがては飽きられ、過去の遺物と化していき、世代交代が起きます。
グッチのように、ひとたびは「おばさんブランド」と揶揄され、そこからトレンドの表舞台に返り咲くなんていうことは奇跡に近いのです。
つまり、強大なブランドも必衰なわけであり、それはタイミングの問題だともいえます。
参入に巨額投資が必要か
建設事業で、大きな案件を国や自治体から受注するようなビジネスでは、新規会社は大規模建築の実績がないため入札に参加する資格を持つことがむずかしいといえます。
ただし、運営に失敗し、赤字を垂れ流す事業を買収することもできるはずです。
身近な例でいえば、内装に2千万円かけた飲食店の経営に失敗した運営会社が、高額な家賃を払い続けられないとして、豪華な内装を100万円で売却することも少なくありません。
政府による参入の制限
一言でいえば、政府はどうしても大手企業を優遇する立ち位置にあります。
その他、法律による参入障壁で守られている業態もあります。
当然のことながら、国家資格なしに医師や弁護士などの業務はできません。
しかし、弁護士の資格は取得が容易になったために仕事の取り合いが起こっています。
かつては押しつけ合い、「やらなければダメ」といわれていた国選弁護の案件は、いまや早い者勝ちで消えていきます。
医師も、その他の資格と同様に、資格をとりさえすれば食えるとは言いにくい状態であるのかもしれません。
すでに酒販免許は特権ではなくなり、タクシー業務も解放されようとしています。
あるいは、かつてホリエモンや楽天、ソフトバンクによる買収の動きがあったように、テレビなどの放送免許事業ですら企業買収ができれば参入も可能でしょう。
目に見える特権は次第に認められなくなり、剥がされていく。
これは、今後、確実に起こりうることでしょう。
その他の項目について
極端な例ですが、宝石の原石は入手ルートが限られており、資本力があるからといって新規参入できません。
ところが、入手ルートを有する企業に勤務して人脈を築いた担当者にとっては,いちばんかんたんな起業の道になるといえます。
(ここは、ポーターの唱える「5つの脅威」のほうにハマりますね。)
個人のスキルやノウハウに依拠するコンサルタントなどは、経験を積まなければなりませんが、経験を積んでいない人には仕事の依頼が来ないわけで、その過程でインチキコンサルタントが跋扈する素地となっています。
では、どうやって参入障壁をつくるのか。
次回は、そこについての考察をお伝えいたします。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削 徹(ゆげ とおる)でした。
ものづくりコラムcolumn
- 2024/12/16
- ネーミングを生成AIで作成する方法
- 2024/10/16
- ネーミングのチカラで選ばれる
- 2024/10/11
- リスティング広告のキャッチコピーはこう書く
- 2024/09/10
- 作曲AIの実力とは??
- 2024/09/09
- 展示会セミナー復調!!