製品の価格決定戦略を練る
■低価格にしてはいけない理由
価格戦略が重要、とはよく言われることですね。
私も、「価格競争をしないでください」と支援先企業にお話ししています。
では、なぜ低価格にしてはいけないのでしょう。
●低価格にすることのデメリット
1 利益が出なくなる
2 値引き競争になり、会社が疲弊する
以上はとうぜんのことですね。
3 安モノを売る会社と思われる
日本には「価格の高いものは、価値のあるもの」と考えている人が多くいます。そうした人たちにとって、「価値の低い商品を製造・販売する会社」とみられてしまいます。
かつて、定価や希望小売価格が当たり前だったころは、その金額がその商品の価値だったのです。
いまはオープン価格が当たり前になったため、目利きのできない人は高いのか安いのかわからず支払いをしています。
この項目は、次の4、5、6項にも関係するものです。
4 安モノを求めて客層が低下し、クレームが増える
品質はともかく、価格さえ安ければいいと考える顧客とのお付き合いが増えます。
技術を見込んで取引を望んでくれる設計・開発担当部門ではなく、安く買い叩くことが仕事である購買部、資材購入課と付き合うわけです。
5 価格以外のウリが消え、お客様が価格で他社へ去る
価格を理由にして選ばれるほどむなしいことはありません。
なかには、自社技術に本質的なウリがあるというのに気が付かず、値引き要求に応じつづけているお人好し工場もあります。
一般商品のバーゲンハンターのような顧客は、低価格で買いに来て、他の低価格を見つけて去っていくのです。
6 売価が高かったり安かったりすると顧客が不満を抱く
価格戦略ができておらず、(いっときのマクドナルドのように)価格が上がったり下がったりしていると、せっかくのファンも逃げ出してしまいます。
長期顧客を優遇するときはあってもいいと思います。
反対に、携帯各社は長期愛用ユーザより、他社からの切り替えユーザを優遇しています。
これはユーザのロイヤルティを毀損する施策です。いくら大金をかけてCMでブランディングをしても、「自分のためのキャリア」としての愛着がわかないことになります。
7 定価で売る努力、工夫が生まれなくなる
顧客が、おカネを払わずにはいられない価値を生み出す努力をしてこそ、中小企業が生きる意味が生まれます。低価格勝負は大手企業のフィールドであり、われわれが戦いを挑む土俵ではありません。
どれほど困っても、値下げは最後の手段。
最初は売れたり、感謝されたりしても、すぐに慣れてしまうものです。
一度下げれば上げづらく、「知恵を出すより値を下げよう」という、安きに流れる体質が染みついてしまいます。
人は、高級品を買おうとするときは高くても同じ店、信頼できる店で買おうとします。
逆に、低価格の生活必需品を買うときは、あれこれ安い店を探し、はじめての店でも買おうとするものです。
これは価格弾力性※とも通じる話です。
※価格が安くなると需要が増える商品を価格弾力性が高いといいます。
こう考えると、生活必需品の消費税を減免し、高級品に多くかける、かつての物品税のような税体系がよいのではないかと考えられるのです。
さて、子供食堂のように、価格が安いことで社会事業となっているようなケースもあるでしょう。
しかし、こんな事例もあります。
社会貢献のつもりで低価格の玩具をつくりつづけていたあるメーカーは、創業社長が高齢化してみると、そのような価格では誰も事業承継をしてもらえないと気づきます。そのため、結局は子供たちにおもちゃを届けつづけることができなくなってしまった。
つまり、適正な利幅をとることは、ビジネスをつづけていく上でも大切であり、ひいてはお客様のためにもなるというわけです。
■ウチは値上げできるのだろうか?
では、あなたの会社が値上げに挑戦したらどうなるのでしょうか。
1,000円の商品があるとして、試算をしてみましょう。
●値上げのパターン例
原価600円で、売価1,000円の商品
経費として、家賃、人件費など300万円かかるとします。
・1,000円のこの商品が1万個売れるとき、売上計1,000万円
原価は600万円、300万円の経費を引くと、
営業利益は100万円
→これを10%値上げ(1,100円)し、売上が10%ダウン(9,000個)した場合
売上 990万円
原価計 540万円
経費 300万円
営業利益は150万円 …… 利益は1.5倍に
以上は、算数が苦手な私の机上の理論に過ぎません。
けれども、中小企業にとって、値上げが有効な理由があります。
●値上げのメリット
1 人は高いものは質のよいものだと思う
2 お客様は気に入った商品を買いつづけられる
3 仕入れ先にも適正な利益をとってもらえる
4 粗利を宣伝広告費に使えば売上が伸びる
(大手企業は宣伝費を最初から乗せている)
5 高い給料を払えれば人材管理がラクになる
(人がやめない、求人しやすい、優秀な人材を確保できる)
値上げがむずかしいことは理解できます。
しかし、経営目標のひとつとするのも悪くはなさそうです。
■自社商品の価格決定方法
では、適正な価格とはどのように考えて決めていったらよいのでしょうか。
価格決定の戦略には、次のようなものがあります。
自社の業態や商品の性質を鑑みて、活用してみてください。
●価格決定の方法
・コスト積上げ法 (これはいわば自社都合視点ですね)
・競合価格同調法 (つまり市場の相場視点です。どうすれば競争優位価格になるか)
・顧客値頃感適応法 (これは顧客の感覚視点です)
・課題解消値踏み法 (顧客が得られる利益や付加価値はどれくらいかという視点です)
・代替対策相場法 (同様の商品に限らず、課題解決の方法ぜんぶを顧客の視点で選択します)
・マージン重視法 (流通取扱い視点です。建材などは流通に手厚くすることでシェア拡大できます)
その他にも、付帯的なものも含めて下記のような考え方の根拠があります。
・・最も利益の出る価格帯探求 (価格弾力性視点)
・・定額制戦術 (いわゆるサブスクリプションです)
・・フリー戦略 (フロント商材を無料にするやり方です)
・・手続き代行価格 (書類作成や申請代行など、めんどうなことを含めることで利幅を取りにいきます)
・・メニュー煩雑戦術 (携帯電話のように最適価格を考えさせないというやり方です)
・・松竹梅フレーミング戦術 (買わせたい価格を、真ん中に据えるという、よく知られた方法)
・・大台意識設定 (スーパーだけでなく、980円のような値頃価格を意識して値付けします)
・・ネット申込み優遇 (何かと抱き合わせ販売することで、トータルで利益を出します)
・・高価格許容場所 (山頂、映画館、銀座など、価格が高くても納得してもらえる場所での話)
・・季節変動 (時期によって価格が変わるフレックスプライス、スポーツ観戦チケットやホテルなど)
・・学生、オピニオンリーダー優遇価格
・・長期割引、早期割引、まとめ買い優遇、紹介割引
・・期間限定、数量限定割引
・・タイムセールス戦術
・・価格比較戦術 (1日あたり缶コーヒー1杯分!)
・・クーポン、会員カード囲い込み戦術
■おまけ(読まなくて大丈夫です)
よく講師業界で言われることですが、企業が講師を選ぶ際に、もっとも発注しやすい価格帯は30万円くらいだそうです。
それを考慮に入れなくても、弓削の講師としての力量であればちょうど2時間30万円が相場です。
でも実際は、講師料を10万円に設定しているのですから、私自身が安売りをしているように思われるかもしれません。
しかし、これには2つ理由があるのです。
1つは、公共の経済団体は10万円以下の講師料金を予算としているケースが多いこと。
社会貢献として講師業をしていますので、公共団体が発注しやすい価格にしておくことは重要です。
もう1つは、気に入らない仕事は断ることができるようにするため。
ということで、自戒も含め、価格戦略については考えつづけていきたいと思います。
製造業のマーケティングコンサルタント、弓削徹でした。
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